木馬の時間

ブログタイトルは俵万智さんの大好きな歌から。ゆっくり、前に後ろに。

違国日記 ヤマシタトモコ

 

違国日記 1-5巻 新品セット

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事故で亡くなった姉夫婦の子、朝を引き取った槙生との物語。

"あなたの感情はあなただけのもの"

"何に傷つくかは私が決める"

自他の感情を分けることが、この本のテーマのつち一つだと考えた。

"私にとって自分の感情はとても大切なもので、それを踏み荒す権利は誰にもないのだから。そして誰も私と同じようには悲しくないのだから"

 

槙生のそんな言葉に、両親の死に素直に悲しいと泣ける形で感情が出てこなかった朝は救われた。

でも、同時に、槙生が自分の気持ちを理解し共感することができない事実に、絶望的な寂しさに襲われる。寂しさという気持ちは、きっと感じにくい気持ちで、だから朝は、"怒り"として知覚し、槙生にぶつけたくなったろう。

 

わたしたちはそれぞれ違う国に住んでいることを、強く強く意識せざるを得ない槙生と朝との生活はある意味楽で、ある意味辛い。

親子だったら、同じ国に住んでる、全部分かり合えるという幻想が、"反抗期"という発達課題を通して崩される。

親の不完全さにイライラし、自分で全部背負っていかなければいけない現実に不安になる。

その葛藤のエネルギーを、親にぶつけ、友人や自分の趣味など、自分だけの世界に癒される。

…親になるつもりはないと公言している槙生は、反抗の相手になり得ない。

どうしようもない状況に翻弄される朝の切なさや辛さが伝わってきて、胸が痛くなった。

 

登場人物たち一人一人を丁寧に描いている。

失敗もし、誰かを傷つけたりもする、不完全な人間。

一人一人がリンクしていく描写がある。

他者に対する厳しい視線が、自分に対しても厳しく向いてしまい、うつ病になってしまぅた笠町と、実里がリンクする。

よく寝ている朝の寝顔をなんとも言えない表情で見つめていた槙生は、うつ病になった笠町がよく寝れていたことに安心する。

笠町が槙生を慰めてくれているやり方で、槙生が朝を慰めていることに気づく。

 

完全には分かり合えない私たちが、どこか分かり合える瞬間もある。

違う国に住んでいる事実はそのままだけど、お互い影響しあい、支え合い、助け合い、時に共感し合っていく。

素晴らしい作品だと思います。

出会えたことに感謝。

 

4巻の終わりの、笠町と槙生の関係性の話もとってもよかった。にやにやしてしまいました。