伊藤さんの凜とした表情が印象的なこの本を読もうと思ったのは、Kindle Unlimitedにあって、無料で読めるからだった。
それくらい、軽い気持ちで読んだ私にとって、伊藤さんがどれだけの覚悟を持ってここ数年を生きてきたかを目の当たりにして、胸が痛くなった。
自分と同世代の女性が。
誰かの主観である限り、客観性とは離れる。
伊藤さんもそれを覚悟の上で、主観的なストーリとしてこの事件を記載したのだろう。
記者会見もそう、この書籍もそう、大きな力にもみ消されてしまいそうな中、どうにか戦うための一手段である。
主観的に描くことで、どんな思いをしたのか、リアリティをもって私たちがその痛みを想像することができる。
記者会見の伊藤さんの若く美しい堂々とした様子は、"同情される被害者像"とは異なり、
"才色兼備な女性が求職のため、色仕掛けを使ったお酒の席で、セックスに至り、それを盾に脅している"
というストーリーをもしかしたら、抱いてしまう方だっていたかもしれない。
ただ、この本を読んだ上で思うのは、
"同意がない上でレイプされれ、その心身の外傷に苦しんでる中で、加害者も警察にもまともに向き合ってもらえなかった"というストーリーがありありと伝わってきた。
その中で伊藤さんや、伊藤さんの近しい人が感じた傷つき、憤り、怒り、悲しみが私の中で再現された。
そして、伊藤さんだけではなく、いろんな状況で望まない性行為を強いられ、それを"自分の落ち度のせいだ"と、他者や自分で責めている人たちの姿が重ね合わされた。
伊藤さんは、自分のためだけに頑張ったのではなく、他の被害者や今後さらなる被害者を生まないために頑張ったことが伝わってくる。
だからこそ、あそこまで堂々としていたのだろう。
ただし、家族が反対した気持ちもわかる。
なぜあなたが被害者代表でやらなければいけないのか、理解してもらえなかった伊藤さんの悲しみと、親の悲しみとか伝わってきた。
よくわからないけけど、きっと大きな権力が働いてるんだろうことは想像に難くない。
その描写は、伊坂幸太郎のゴールデンタイムズを思い出した。
伊藤さんは書籍の中で怒りを感じられないと言っていたが、それは、怒りを感じてしまったら心身ともに持たないから、感じないように乖離させている部分があるのではないか。
伊藤さん自身も
私自身の心を守るための方法かもしれない。
と述べているが。
そして、親に強いられて行った精神科でEMDR(視線を左右に動かしながら、トラウマ体験を想起する治療法)を勧められたが、苦しみを軽減することによって問題への危機感を薄れるのではないかと疑念を抱いている描写がある。
自身の気持ちをケアする段階の前に、まずは安全を確保することが必要である。もうあなたは傷つかないし、あなたの世界は明日もちゃんと確かに続くという、確信があって初めて、自分をケアする段階にあるのだろう。
この書籍を書いている段階では、まだ伊藤さんは安全が確保されておらず、走り続けている段階にいるのだろう。